【統合失調症】『Hidden Valley Road』by Robert Kolker の感想・レビュー

こんにちは。ゆずまるです◎

今回は、『Hidden Vally Road』です。12人中6人の子どもが統合失調症を患った大家族のノンフィクションの話です。オプラ・ブッククラブでも取り上げられて注目されていました。

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 【一言でいうと】

  • 統合失調症に悩まされた大家族の、インタビューや日記などに基づく詳細な経験。両親・病気を患った6人の子ども・患わなかった子ども、それぞれの経験が重層的に書かれています。
  • この大家族が、病気の原因解明や治療法の開発にどのように貢献したか、科学者たちの挑戦の歴史も並行して書かれていて、この病気への理解が非常に深まる!

    です!

【内容】

  • 統合失調症については、100人に1人いると言われていますが、幻聴や錯乱などを感じてしまう病気です。思春期に発病することが多いとされ、いったん発病すると、長く付き合って行かなければいけません。

  • この病気は、なぜ起こるのか、体のどの部分が機能しなくなるのかなど、未だに分かっていない部分もあり、医学者にとって、非常に厄介な病気です。遺伝性なのか、あるいは、トラウマや家庭環境が引き起こすのか、あるいは両方なのか、長年、議論がされてきました。そして、これは未だ現在進行中なのです。

  • この家族は、12人中の6人の子どもが統合失調症ということなので、科学者にとっては、格好の研究材料にもなっていて、統合失調症の研究に貢献したとされています。

  • ストーリーは、大家族の両親・子どもたちの詳細なインタビューに基づいて書かれており、筆者は、「自分の創作は何もない」とも言っています。

  • 家庭の中での、混乱・トラウマ・性的虐待・嫌悪・愛・罪悪感など、それぞれのメンバーに対して、それぞれの経験があり、多様な角度から立体感をもって彼らの経験を筆者が伝えてくれています。

  • 科学者たちの病気の解明への挑戦の歴史と、大家族の経験の描写が、行ったり来たりするかたちで、巧みに書かれていて、その構成にも唸らされます。

【洋書としてのレベル】

  • 読みやすいと思います。チャプターが細切れになっていて、飽きさせないのもありがたかったです。

【感想・考察】

  • この本を読んで、難しい病気だなと思ったところは、発病してからの症状に波があり(落ち着いたと思ったら、また錯乱状態に陥る)、薬の副作用もあるので、継続的な服薬・状態の安定が難しいところです。多くの子どもが、精神病院への入院と退院を何度も何度も繰り返していて、服薬を拒否する場面も多く見られました。

  • こうした難しさに対応するため、家族が粘り強くケアすることが必要になるのですが、それを全て背負うと、今度は家族がバーンアウトしてしまう。この大家族のケースでは、母親が獅子奮迅の活躍をしていましたが、結局ほかのところにしわ寄せがきていました。
    患者だけではなく、どうそれを支える家族をケアするのか、難しい課題かと思います。(介護離職とかも少し似ています)

  • 「薬の副作用が逆に健康を害していて逆効果なのではないか」、「服薬よりカウンセリングの方がいいのではないか」といったように、未だに多くの議論がなされていて、近い将来、さらにこの病気の謎が解き明かされることを切に願います。

  • また、病気に人生を翻弄された家族の、それぞれの病気への向き合い方が異なることも興味深いです。

  • 病気にならなかった子どもの中でも、「もう家族と縁を切りたい」という一方で「彼らを支えるのが責任だ」という考えもありました。

    母親は、兄弟が幼く全てが順調だった時代を心の拠り所にしたり、忙しく兄弟のケアをすることで、逆につらい現実を直視しないようにするところがありました。

    病気になった兄弟のなかにも、葛藤を抱えたり、錯乱の中でも昔と変わらない優しさを見せることもありました。

    一番下の二人の姉妹(両方、病気にならなかった)が、家族からの愛を得られず、ぼろぼろだった幼少期の経験を、互いにシェアすることで、絆を深め、人生を再発見していくこともありました。人生は一つの家族をとっても、本当に多様ですね。

以上です。統合失調症について大きく理解を深めてくれる一冊だと思いますので、是非読んでみてください!

 

ゆずまる◎