【危機対応】『American Crisis』by Andrew Cuomo の感想・レビュー
こんにちは。ゆずまるです◎
今回は、ニューヨーク州のクオモ知事による、『American Crisis』です。去年の3月にコロナウイルスがNYで猛威を振るっていた時の、行政側の経験が知事目線で書かれています。
(現在、クオモ知事は、老人ホームでのウイルスによる死者数を減らして見せたり、知事のセクハラ言動で辞任を求める声も上がっています。)
【一言でいうと】
- 去年3月からNYで猛威を振るったコロナウイルスの対応として、行政側で何が起こっていたのか、クオモ知事視点のクロノロジー。危機下における行政の在り方、その中での州政府と連邦政府の対立などについて、考えさせられます。
・・・です。
【内容】
- 昨年3月にコロナウイルスがニューヨークを襲い、一日800人もの方が亡くなるような、凄まじい事態が発生しました。その対応の先頭に立ったのが、本の著者のクオモ知事です。当時は、アメリカ大統領選の候補者選びの段階だったので、クオモ知事を大統領に!という声も聞こえたほどです。
- この本は、時系列的に、コロナウイルスの足音が聞こえてきて、3月に入って一機に広がり、悲壮感が漂う4月や5月を経て、なんとか第1波を超えるところまで書かれています。(その後、12月頃はまた酷い状況になりましたが。。。)
- 行政府内での議論や、ウイルスに対する戦略、トランプ大統領との関係など、クオモ知事目線というバイアスを承知した上で、色々書かれており、興味深いものとなっています。
【洋書としてのレベル】
- 特に問題なく、読みやすいと思います。
【感想・考察】
- 僕の一番のテイクアウェイは、知事のコミュニケーションスタイルです。
危機的状況の中、人々が情報の波にのまれたのは記憶に新しいところです。
その中で知事は、毎日決まった時間に、ウイルスの蔓延状況や対応方針について、知事本人の口から記者会見をし、それがテレビ中継されていました。その透明性や信頼性が、人々から信頼された理由かと思います。 - この本によると、毎日原稿も自分で書いていたということ。そしてプレゼンも、ニューヨーク州の担当者が知事の指示に従って、一生懸命つくっていたということです。
日本の政治家でも、原稿を読み上げるだけの人がいる一方、原稿の内容を理解した上で、自分の言葉で話す人もいますよね。やはり内容を正確に理解し、自分の言葉でしゃべれないとと長時間の会見では「ぼろ」がでるので、その点、知事はコミュニケーションに長けていたと思います。 - 日本の会見ではプレゼンは使わないですし、また、日本の会見は基本的にその場にいる一番偉い人が話すことになっています。その点、クオモ知事は、専門家を横に従え、自分の範囲を超えるところは専門家にお願いするということで、会見のキャッチボールの質を保っているようでした。ここは真似したいところです。
- 次の点は、危機下のリーダーシップについてです。今回、僕も含め、危機的状況に陥ると、人は強いリーダーを求めるものだ、ということが身をもって分かったのではないかと思います。
- コロナ前から、そもそも知事は強硬なところがあり、民主党の州議会とも対立するような個性の持ち主と言われていました。
また、ニューヨークでは9・11直後に、ジュリアーニ市長が強いリーダーシップを発揮しましたが、クオモ知事もそれを見ていました。
こうした中で、コロナウイルスの蔓延を受け、知事は議会から権力を委任され、市民からの支持を後ろ盾にして、強いリーダーとなったのですね。 - また、現在(2021年3月)の状況も興味深いです。あれほど支持されていた知事が、セクハラ・パワハラ等の問題で、辞任を求める声が上がっています。勿論、セクハラは許されないことですが、危機が過ぎ去った中、強いリーダーは必要ないというようにも解釈できます。
- アメリカの中で人気のある大統領として、F・ルーズベルトとリンカーンがいますが、いずれも危機下の大統領であり、彼らの在任期間中に、実は最も人が亡くなっています(WW2と南北戦争)。こういうのを見ても、危機と強いリーダーというのは関連しているように見えますね。
- 最後に疑問なのですが、アメリカ政治を見ていると、ネポティズム(縁故主義)なのでは?ということをよく見かけます。
知事は、コロナ対策に追われている中で、娘たちを州都のアルバニーに呼び寄せ、彼女らにコロナ対応のタスクを任せていたりしています。個人的には、ネポティズムに見えますし、その点、トランプ大統領と同じようなことをしているのですが、これはアメリカのカルチャーなのでしょうか。。ケネディ大統領も兄弟を頼っていましたよね。。。
以上です! ここでは知事のコロナ対策には触れませんでしたが、日本とニューヨーク州の対策の比較も興味深かったです。
ゆずまる◎