【経済学】『Good Economics for Hard Times』by Abhijit Banerjee/Esther Dufloの感想・レビュー

『Good Economics for Hard Times』by Abhijit Banerjee/Esther Duflo取り上げてみたいと思います。

この本が出版されたときは、ちょうど作者のお二人がノーベル経済学賞を受賞したばかりの2019年だったと思います。出版時の状況から世の中もかわっており、賞味期限切れかな?という不安もありましたが、そんなことはない。作者二人の知識・示唆は常に興味深かったです。

 

最新の社会科学の研究成果を用いて、イデオロギーで語られがちな問題について、どこまで現状でわかっていて、どこまでわかっていないかを丁寧に紹介してくれています。

例えば、
・ 移民を受け入れると国内の労働者の失業が増えるのではないか
・ 税率をあげると、労働へのインセンティブが下がるのではないか
などなど。

彼らの前著である『Poor Economics』に比べると、アメリカ国内の話題が多いようです。引き続きインドをはじめとする途上国での知見も沢山ありますが、アメリカのPolarization, Racismとかに対して問題意識がある方にとっても良い本なのではないかと思いました。

 

読後感としては『Poor Economics』ほどの衝撃ではなかったのですが、これは、『Poor Economics』が出版されてから、やっと世の中が作者お二人にキャッチアップしてきたということなのかもれいないなと思います。

最近は、社会科学の中でもRCTなどの因果推論も非常に沢山の本も出ていますし、そういう意味で二人の影響力の強さというのを改めて感じます。

 

特に経済学のモデルで所与のものとされてきた前提をどんどん疑って、政策立案への示唆だしをしようとする試みは興味深かったです。


例えば、経済学のモデルにおいて、労働力は賃金が高い国・地域・産業に移動するはずだと簡単に語られがちですが、実際の社会ではもっと労働力移動は鈍いです。このように経済学のモデルの前提を疑い、イデオロギーとして語られがちな社会問題についてファクトベースで考える姿勢には非常に共感できました。