【公民権運動】『March』by John Lewis (ジョン・ルイス)の感想・レビュー
こんにちは。ゆずまるです◎
今回は公民権運動のリーダーの一人の John Lewis による自伝、『March』です。しかも、自伝なのにコミックなので、誰にでも手に取りやすい形になっています!
【一言でいうと】
- 正義に向けて戦った John Lewis の白熱の自伝!並外れたリーダーシップとその勇気に Inspire される!
・・・という感じですね。
【内容】
- 作者の John Lewis は1960年代にアメリカの公民権運動を率いたリーダーのひとり。Dr. King とも共に活動し、アメリカにおける人種差別是正に大きく貢献しました。2020年に亡くなるまで、議員としても活躍しました。
- アメリカでは、1860年代の南北戦争で奴隷が禁止されましたが、その後も人種差別が続き、学校、レストラン、バスなど、人種で実質的に社会が線引きされていました。南部の州では、そもそも選挙権が黒人に与えられていませんでした。
- そういう文脈の中で、多くの活動家が活躍していく時代でしたが、John Lewis の自伝は、カウンター席での sit in、 差別的な長距離バスへの挑戦(Freedom Ride)、 ワシントン大行進、セルマの Edmund Pettus 橋での行進、などでの経験が含まれています。徐々に草の根の活動が世の中の大きなモメンタムを生み出し、連邦政府まで動かしていくダイナミックさが John Lewis の自伝を通して見事に描かれれています。
- 非暴力を徹底し、彼自身、何度も警官や暴徒に殴られ、一歩間違えれば死ぬような経験もします。また40回以上も逮捕されたそうです。そのような中でも戦い続け、人々を動かした彼の強さに、本当に胸を打たれました。
【洋書としてのレベル】
- 単語はやや難しいですが、ゆっくり読めば問題ないかと思います。時代背景を知らないと、たまについていけなくなるところがありますが、僕はwikiで補完しました。コミックは3冊に分かれていて、結構なボリュームです。
【感想・考察】
- まず、公民権運動の活動家たちについて本当にすごいと思ったのは、彼らのリーダーシップです。リーダーといっても、会社の社長や政治家のような Formal なリーダーがいる一方で、企業や行政府などの組織に支えられていない Informal なリーダーもいて、彼らは Informal なリーダーだったのではないかと思います。
- Informal なリーダーがリーダーである理由は、人々からの信頼です。彼らはもちろん活動組織の長でもあるのですが、彼らの組織は特に労働契約とか営利とかに基づくものではなく、「人々のパッション」が彼らをつないでいました。そのため、運動のモメンタムや、組織内での不信任などが蓄積すると、あっさりと組織が瓦解してしまう、そんなような爆弾を常に内包したように見えます。
- そのような中でも John Lewis は、全会一致の意思決定プロセスや、リーダー的な役割を順番にメンバー内で回し、あるいは、組織全員に彼の思いを何度も伝えたりし、人々をまとめようと努力します。
それでも、組織が大きくなるにつれ、非暴力戦術に嫌気がさし、急進化する人がいたり、John Lewis も信頼を失ったりします。この本は、Informal なリーダーシップの難しさを、彼の苦悩を通して、非常によく描いているなと思いました。 - 次に彼らのすごいところは、パッションだけではなく、戦略に非常に長けていたところです。例えば、非暴力運動といっても、本を読んだだけでできようになるわけではないので、ロールプレイ(罵倒され、水をかけられるなど)をして、活動員が目的を果たせるよう、厳しいトレーニングをしていました。
- また、メディアの活用、連邦政府へのプレッシャーへのかけ方など、喧々諤々の議論も行われていましたし、行進するときのロジスティクス(給水や暴力を受けた時の治療など)も大変な作業だったと思います。パッションに加え、こうした戦略が社会変化を生んだんでしょうね。
- また、黒人以外の活動家も興味深いところです。John Lewis が関わったカウンターでの sit in や Freedom Ride には白人も黒人とともに参加していました。すると、こうした白人は、暴徒から積極的に狙われます(白人が白人をリンチする)。裏切者、そのような心理状況だったのでしょうか。
- 女性のリーダーシップも気になるところです。公民権運動の中では、Rosa Parks や Diane Nash (John Lewis と共に活動)など女性の活動家がでてきますよね。一方で、コミックの中では、女性がリーダーシップから排除されているのに不満を持っていたという描写があります。公民権運動は黒人「男性」の運動なのか?、そういう視点も持っていたいと思いました。
- 長くなりましたが、最後に触れたいのは、リンドン・ジョンソン大統領です。彼は、ケネディが暗殺された後に政権を引き継ぎ、公民権法・投票権法を実際に制定しました。あまり日本では注目されていませんが、部分的な国民皆保険制度である、メディケアやメディケイドを創設したのも彼ですし、アメリカ国内のその後の内政に大きな影響を及ぼした人物です。彼自身の政治思想の転換も面白く、もともと南部出身で全然リベラルでなかったのに、時代を読みながら公民権法・投票権法を制定していく。。。興味深いですね。僕のアメリカの友達からもよく、彼の名前が出ますし、機会があればフォローしていきたいと思います。
以上です!マンガのタッチも迫力があり、是非手に取っていただければと思います!
ゆずまる◎